太正桜と伝説の笑顔 第01話



太正桜と伝説の笑顔

第01話 取り戻した笑顔と太正桜
作:30番



 ある日の夕刻、新東京国際空港の国際線到着ロビーを海外から帰国したばかりらしい1人の青年が大勢の人の流れと共に出口に向かって歩いていた。
 自動ドアを抜けて人ごみから抜け出した青年は、両手を上に挙げながら気持ち良さそうに伸びをすると、大きく息を吐いた。
「あー、久しぶりのニッポンだー」
 そう独りごちる青年の目に、蹲って泣いている子供の姿が映った。
 それが気になったのであろう、青年は最初訝しそうな顔をしていたが人懐っこそうな笑顔を浮かべると子供に歩み寄った。

「どうしたんだ?こんなところで」

 青年は子供のすぐ傍にしゃがみこみ泣いている子供に声を掛けて顔を覗きこんだ。

「お母さんが、お母さんが」

 子供はある方向を指差しながら泣き続けていた。
 顔を上げた青年が子供の指差す方向を見たと同時に、青年の脳裏に強烈なイメージが駆け抜けた。



 風に舞い踊る無数の桜の花びら。どこか懐かしさを感じる、けれど遥か昔に消えてしまったもう決して見る事の出来ない古びた町並み。
 やがて町並みは炎に包まれ、逃げ惑う人々と邪悪な雰囲気を纏った巨大な影。そして現れる剣、鏡、勾玉のイメージ。



 突然の出来事に暫し呆然としていた青年が漸く正気を取り戻した時、凄まじい音と光と共に稲妻が二人を直撃した。
 天地を貫かんばかりの落雷の影響で、辺りは轟音と眩い光に溢れ返った。
 しばらくして、その場が静寂を取り戻したときには青年と子供の姿は霧のように掻き消えていた。



 身体中を強烈な電気が走り抜けたような衝撃から青年が意識を取り戻したとき、傍にいたはずの子供は見当たらなかった。
 青年が辺りを見渡すと、その子は少し先で仰向けに倒れこんでいる女性にしがみつき泣き声を上げていた。
 急いで駆け寄ろうとした青年は、そこで初めて自分が倒れこんでいる事に気付くと、慌てて立ちあがり親子の元へ走り出した。
 二人の元に駆けつけた青年は、倒れている母親の脈と呼吸を確認し気絶しているだけだと確認すると心配そうにこちらを覗き込んでいる子供に声を掛けた。

「だいじょーぶ!お母さんは気絶してるだけだ」
「ほんとう?」

 零れ落ちる涙を拭いもせずに顔を上げて聞いてくる子供に、青年は柔らかい微笑を向けた。

「うん、本当だよ。どこかで休ませて…」

 そこで顔を挙げ、辺りを見渡した青年は愕然と立ちつくした。
 目の前では3メートル強の茶色い人型のロボット数機と白、ピンク、紫、黒のこれまた人型ロボット、更には他のものより一回り大き目の漆黒の人型ロボットが戦いを繰り広げていた。
 戦いの所為なのか、街は破壊され火災までもが発生して炎に脅えた人々が逃げ惑う姿があちこちに見受けられた。

「ロボットが…戦ってる?…街が!あんなに破壊されて、皆が脅えてる!」

 青年は暫く呆然とした様子でその光景を見つめていたが、破壊された街と逃げ惑う人々に気付き、強い意思の篭った鋭い瞳で未だに戦いを続けているロボットたちを睨み付けた。

 理不尽な殺戮と破壊を繰り返す特殊な部族に対し立ち向かい、幾度と無く精神(こころ)を砕かれそうになりながらも、沢山の人々に支えられながら生き抜ぬく為に、そして皆の笑顔を護る為に戦い続けた日々。

 燃え盛る炎を見詰める青年の脳裏には辛く長かった戦いの記憶が蘇っていた。
 そう、この青年は戦いによって失った笑顔を取り戻すために長い旅に出て、ようやく日本に帰ってきたばかりだったのだ。

「お母さん、お母さーん」

 母を呼ぶ子供の声に、はっと我に返った青年は親子に向き直り、子供ごと母親を抱きかかえ近にあった破壊されていない建物の中に運んで行った。
 母親と子供を静かに床に下ろした青年は、背負っていたバックを枕代わりに母親の頭に敷いて、上着を脱いで毛布代わりに着せ掛けると、できるだけ優しく子供に声を掛けた。
 上着を脱いだ青年の首には”戦士”を意味する古代文字を象ったペンダントが揺れていた。

「良いかい? ここを動いちゃいけないよ。ここでキミがお母さんを護るんだ」

 その言葉を聞き、涙ながらに子供が頷くのを見た青年は、子供にサムアップを返すと外に飛び出して行った。
 そして、一番近くにいた紫色のロボットの前に踊り出て、そのロボットを指差しながら叫んだ。

「お前達か!街をこんな風にしたのは!」

 薙刀のような物を持った紫のロボットは突然飛び出てきた人影に驚きながらも気丈に言い返した。

『な、なにをおっしゃっていますの!ち、ちがいますわよ!』
『どうしたんだ!?すみれくん!』

 うろたえて答えを返した紫のロボットに、近くに居た白いロボットから通信が入る。

『しょ、少尉? 民間人が、目の前に居るんですの』
『なんだって!?』

 青年は紫のロボットからの答えを聞くと、慌てている紫のロボットから離れ、今度は他よりも一回り大きい漆黒のロボットを指差し再び叫んだ。

「じゃあ、お前達が街を破壊したのか!」

 その漆黒のロボットは自分を指差して叫んでいる青年に振り返った。

『いかにも! 街を破壊したのは我々だ!』
「なぜそんな事をする!?」
『我らの理想を実現する為だ!』
「そんな事のために!? そんな事のためにあんな小さな子供を悲しませているのか!」

 余りにも自分勝手な理由で街を破壊するロボットたちに対して、青年は拳を握り締め怒りを顕にする。

『それがどうしたと言うのだ!? 虫けらのごとき貴様ら人間になにが出来る!? こうるさい雑魚め。脇侍よ、あの人間を踏み潰してしまえ!!』

 その命令に従い、数機の茶色いロボットが青年に襲いかかろうと近づいてきた。

『いかん!』

 いち早くそれに気付いた白いロボットが目の前の敵を素早く破壊して青年を守る為に駆け寄って行く。
 しかし、青年は茶色いロボットを睨み付けたまま逃げようともせず勢いよく両手を自分の腹にあてがった。
 青年の腹部が白く輝き、そこに金の装飾の入った銀色のベルトが出現した。
 青年はそのベルトに意識を集中するかのように眼を瞑っていたが、カッと眼を見開くと右手を左前に突き出し人差し指と中指だけを伸ばして残りの指を握りこんだ。
 そして左手を腹部のベルトの上にに添えるように構えを取った青年は、自分を信じて支え続けてくれた女性が最後の戦いの前に贈ってくれた言葉を思い出していた。

『聖なる泉を涸れ果てさせちゃだめだよ。…それから、太陽を闇に葬ったりしない事。…がんばってね』

 聞こえるはずも無い声に励まされたような気がした青年は、向かってくる茶色のロボットをしっかりと見据えて力の限り叫んだ。

「変身!!」

 ベルト中央の丸い部分が赤く光輝き、何処か金属的な甲高い音が鳴り響くと青年は昆虫の姿を思い浮かばせる赤い異形の鎧を身に纏っていた。

「おぉりゃぁぁぁぁー!」

 異形の鎧を身に着けた青年は助走を付けて高く飛び上がり空中で一回転すると茶色いロボットに強烈な飛び蹴りをあびせた。
 蹴りをくらい吹き飛んだ茶色いロボットには青年の蹴りが当たった個所に不思議な紋様が現れ、そこから亀裂が走りやがて大爆発を起こし完全に破壊されてしまった。

『な、なんだ!? 脇侍を一撃で破壊したのか!?』

 民間人だとばかり思い、あわてて助けに入ろうとしていた白いロボットだったが、その対象が突然異形の姿に変身し、あまつさえ茶色のロボットを一撃で撃破してしまった事により混乱したまま動きを止めてしまったいた。

「どぉりゃぁぁぁぁぁー!」

 驚きの声をあげる白いロボットの目の前で異形の鎧姿の青年は次々と茶色のロボットを破壊していった。
 あまりの出来事に唖然として立ちすくんでいる白、ピンク、紫、黒のロボットを尻目に、異形の青年は茶色いロボットと戦い続けていた。
 複数の茶色いロボットに囲まれてしまった異形の鎧姿の青年は、素早い身のこなしで茶色いロボットの攻撃をかわし、落ちていた棒を拾い上げると再び力強く叫んだ。

「超変身!!」

 叫び声と共にベルト中央の丸い部分が今度は紫に輝くと青年の体は赤い鎧から金に縁取りされた紫銀の鎧に変化し、手に持っていた棒は大振りの剣に変化していた。

『なにっ!?また変わった!?』

 次々と目の前で繰り広げられる非常識な出来事に白いロボットが思わず声をあげていた。

「うぉおおりゃぁぁぁぁぁー!」

 幾分、動きの鈍くなった紫の鎧の青年は襲いかかってくる茶色のロボットを手に持つ剣で一気に切り裂いていく。
 その様子を見ていた白いロボットの周りに、黒、ピンク、紫の3機のロボットが其々自分の相手を片付けて近づいてきた。
 しかし、異形の青年はそれに構うことなく、手にした剣で茶色いロボットを切り刻んでいき、とうとう全ての茶色いロボットを破壊してしまった。

『少尉、彼は何者でしょうか?』
『マリア、俺にも良く判らないよ』
『大神さん、どうしましょうか?』
『少尉! 全く、一体どうなっているんですの?』
『さくらくん、すみれくん、只一つだけ判っている事は、彼が奴らと敵対していると言う事だけだ』

 混乱している4機のロボットを他所に、異形の姿の青年は漆黒のロボットと1対1で対峙していた。

「あとは、お前だけだ!」
『異形のものよ、名は何と言う?』
「俺は、クウガ、戦士クウガだ!」
『我が名は、黒き叉丹(さたん)。戦士クウガよ、この場は預ける、その名覚えておくぞ!』
「なにっ!? 待てぇ!」

 漆黒のロボットは異形の青年の叫びを無視して掻き消す様に姿を消してしまった。

「超変身!!」

 今度はベルトが緑色に輝き、緑の鎧に変わった異形の青年は漆黒のロボットの気配を探るように辺りを見廻している。
 やがて相手が完全に消えてしまったのを確認したのか、緑の鎧の青年は、残っている4機のロボットの方に振り返った。
 ぎくり、と4機のロボットに緊張が走り、暫く両者の間に睨み合いの様な物が続く。
 4機のロボットをしばらく見つめていた異形の青年は、その場で変身を解き手に持っていた棒を地面に降ろすと4機のロボットにサムアップを返した。
 目の前で青年が元の姿に戻るのを見ていた4機のロボットの内、白いロボットの頭の部分が開き、中から白い戦闘服に身を包んだ青年が姿を現した。

『大神さん!?』
『少尉、危険です!』
『少尉!? 何をなさっているんですの!?』
「みんな、大丈夫だ。俺に任せてくれ」
『しかし!』
「大丈夫だマリア。彼は我々の目の前で元の姿に戻った。もうこれ以上、戦う意思は無いと言う事だよ」

 そう言うと白い戦闘服の青年はロボットから降りてもう1人の青年のほうへ近づいて行った。

「自分は、帝国華撃団、花組隊長、大神一郎(おおがみいちろう)であります。よろしければ貴方のお名前を教えていただけませんでしょうか?」
「あ、どうも。俺は、五代雄介(ごだいゆうすけ)。通りすがりの冒険家です」
「は? はぁ…」

 五代は人懐っこそうな笑顔で自己紹介をしつつポケットから取り出した名刺を大神に手渡した。
 その名刺には、こう書かれていた。

 − 2000の技を持つ男、夢を追う男 五代雄介 −

 そしてこれが、帝国華撃団(ていこくかげきだん) 花組と戦士クウガの初めての出会いであった。



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